ゼロ・ウェイストとは?ごみ処理問題と注目されている取り組み

ゼロ・ウェイストとは?ごみ処理問題と注目されている取り組み

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現在、世界から注目されている「ゼロ・ウェイスト」をご存じですか?ゼロ・ウェイストとは、ごみをゼロにする考え方や活動のことです。地球を脅かすごみ問題を、解決へ導く手段のひとつとして広まっています。サステナブル志向の人々はもちろん、ものを持たない暮らしに興味がある人や、節約志向の人の間にも浸透しつつある取り組みです。本記事ではゼロ・ウェイストの意味やその背景にあるごみ問題、注目の取り組みを解説します。

ゼロ・ウェイストとは?

ゼロ・ウェイスト
ゼロ・ウェイスト(zero waste)とは、ごみ(waste)をゼロ(zero)にする考え方です。この考え方に基づき、できるだけ廃棄物を減らす活動をゼロ・ウェイストと呼ぶ場合もあります。

ゼロ・ウェイストの概念では、これらのごみを「どのように処理するか」ではなく、「ごみ自体を出さない」ように活動していく点が特徴です。実際に以下のような取り組みが見受けられています。
・日常生活レベルでごみの出ない生活スタイルに変えていく
・従来の流通と異なる商品を利用する/事業者が流通の方法を変える
(カーシェアリング、レンタルサービスの活用等)
・事業者が資源を浪費しない製品の生産方法を取り入れる

今注目されている理由

ゼロ・ウェイストの考え方および活動は、今、世界的に注目されています。

その理由のひとつが海洋プラスチックごみ問題です。海に流れ込むプラスチックごみの量は増加の一途を辿っており、海洋生物への悪影響は現実の問題となっています。2016年に開催された、非営利財団世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では「2050年には魚より海洋ごみの量が多くなる」という衝撃的な試算が発表されました。

プラスチックごみ以外のごみ問題も深刻です。FAO(国際連合食糧農業機関)の発表によると、世界で1年間に発生する食品ロスの量は、約13億トンにも上るのだそうです。この量は世界の食料生産量の3分の1に当たります。

ごみの処理にこだわり分別・リサイクルをすることはもちろん大切です。しかし、上記のような世界的なごみ問題に対し、ごみ処理の対策だけでは環境保護には追いつきません。このような背景から、ゼロ・ウェイストの意識を持つ人が増加しています。

現在のごみ処理にある問題

ゼロ・ウェイストを目指さなければならないほどごみ処理に問題があるのだろうかと、疑問を抱く人もいるかもしれません。ここで、ごみ処理における問題点を確認してみましょう。

ごみの処理の方法は、埋める・燃やす・リサイクルの3つに大別されます。

1.埋める
最終処分場が必要ですが、各処分場の許容量には限界があります。私たちが利用する土地にも限りがあり、環境省の発表によると、2041年にはごみを埋める場所がなくなってしまうとされています。

2.燃やす
ごみの焼却処分は、地球温暖化の原因であるCO2をたくさん排出してしまいます。日本のごみ処理は8割近くを焼却処分に頼っているのが現状です。

3.リサイクル
日本のペットボトルのリサイクル率は、2020年で88.5%となっています。しかし、回収されたペットボトルの6割は、焼却して発熱エネルギーを回収するリサイクルの方法が取られています。焼却の際に排出されるCO2の悪影響は小さくありません。一方で、燃やさずリサイクルするには、手間やコストが課題となっています。

ゼロ・ウェイスト宣言をしている世界の都市

ゼロ・ウェイスト
日本に先駆けて世界には、ごみゼロを目指し「ゼロ・ウェイスト宣言」をしている都市がたくさんあります。

ゼロ・ウェイスト宣言とは、自治体がゼロ・ウェイストを目指してさまざまな活動を行うと宣言することです。世界初の宣言が出されたのは1996年、オーストラリアの首都キャンベラでした。これ以来、ニュージーランドやアメリカ、ヨーロッパの各都市に宣言が広まり現在にいたります。

日本では2003年に徳島県勝浦郡上勝町が、2008年に福岡県三潴郡大木町がゼロ・ウェイスト宣言を出しました。以降、熊本県水俣市や奈良県斑鳩町、福岡県みやま市などが続き、ゼロ・ウェイスト宣言をする町は増加しています。

ゼロ・ウェイストセンター

ゼロ・ウェイストセンターは、日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を出した徳島県上勝町にある複合施設です。

上勝町は2003年、町内から出るごみをゼロにするという目標を掲げ、ゼロ・ウェイスト宣言としました。町内のごみ収集場はゴミステーション1箇所のみです。町民はさまざまなごみをゴミステーションに持ち込み、45種類以上に分別してリサイクルを実施しています。その結果、町のリサイクル率は80%以上となり、国内外から視察や取材を申し込まれるようになったのです。

ゼロ・ウェイストセンターは、このゴミステーションをリニューアルして2020年に誕生しました。ゼロ・ウェイストの新たな拠点として理念を学べて、世界へ伝えられる場所として機能しています。

上空から見ると「?」の形となっているユニークなこの施設へ、町内の人はごみを持ち込むことができます。町外の人は見学が可能です。また、施設にはまだ使えるものを持ち込み・持ち帰りができる「くるくるショップ」や、ゼロ・ウェイストを体感できる宿泊体験棟もあります。

ゼロ・ウェイスト・ホーム

書籍『ゼロ・ウェイスト・ホーム』を読むと、アメリカ・カリフォルニア州でのゼロ・ウェイストな暮らしを詳しく知ることができます。著者のベア・ジョンソンさんは、フランス出身の女性で、2008年から3人の家族とともに、カリフォルニアでゼロ・ウェイストに取り組んでいます。

ジョンソンさん一家の1年間に出すごみの量は、なんと、わずか1リットル。このような暮らしを想像すると、ストイックに頑張ってミニマルに過ごすようなイメージをしてしまうかもしれませんね。しかし、ジョンソンさんの暮らしにつらい我慢はありません。本に書かれている優雅でシンプルな姿に「真の豊かさとは何か」を考えさせられます。

ごみをほとんど出さなくても、心身ともに豊かに過ごすジョンソンさんの姿は、世界の注目の的になっています。ジョンソンさん一家のように暮らし、ごみの量を減らせる家庭が増えれば、ゼロ・ウェイストな社会に一歩ずつ近づいていけるかもしれません。

ゼロ・ウェイストな生活のためにできること

ごみ自体を出さない社会作りを目指すことこそ、環境問題の対策となります。そのためには私たち消費者だけでなく、事業者や行政が連携して行動していかなければなりません。

まず、私たち消費者がゼロ・ウェイストな生活のためにできることを見直してみましょう。「何をしよう」と迷ったら、以下の「5つのR」に基づいて考えるのがおすすめです。
ゼロ・ウェイスト
Refuse(リフューズ)…断る
・マイ箸、タンブラーを持ち歩き、使い捨ての箸やカップを断る
・買い物にエコバッグを活用し、プラスチック袋を買わない
・量り売りを利用して容器包装を避ける

Reduce(リデュース)…減らす
・食品や生活用品を買い込み過ぎない
・みつろうやシリコンで作られたエコラップを使い、使い捨てラップの使用を減らす
・トレンドを追わず、そのときに必要なものや品質の良いものを購入する
・「TABETE」などのフードシェアリングアプリを使って食品ロスを減らす

Repair(リペア)…修理する
・服、家具、自転車などが傷んでも、買い替えずに修理する
・着なくなった服を別のものにリメイクする

Reuse(リユース)…繰り返し使う
・古着や古本を買う
・着なくなった服は人に譲る
・フリーマーケットやリサイクルショップを利用する

Recycle(リサイクル)…リサイクルする
・プラスチックなどのごみは分別して資源化に回す
・着なくなった服を回収ボックスへ持っていく

日ごろからゼロ・ウェイストに取り組む企業の商品を購入すると、事業者のごみを間接的に減らせます。生ごみをゼロにするには、コンポストがおすすめです。生ごみを堆肥にして再利用できます。

日本初のゼロ・ウェイスト・スーパー

ゼロ・ウェイスト活動のうち、特に日常に取り入れたいものが「量り売りの活用」です。量り売りには、過剰な買い込みを防いで食品や生活用品のロスを減らす、過剰包装を無くすといったメリットがあります。

日本には量り売りのお店がないと感じている人もいるかもしれません。2021年7月には日本で初めて、京都府にゼロ・ウェイスト・スーパー「斗々屋(ととや)」が誕生しました。

斗々屋では消費者が容器を持ち込んで、量り売り形式で商品を購入できます。パスタや大豆ミート、豆類などの乾物だけでなく、ワインやオリーブオイルなどの液体類、野菜、果物などの生鮮品も購入可能です。商品はすべて個包装なしで販売されているため、包装のごみを出さずに買い物できます。

夕方になると「メニューのないゼロ・ウェイスト・レストラン」が開店します。ここでは、その日に店内にある食材を使った、おすすめの料理を提供しているそうです。使い切れなかった食材は保存食に加工し、食品ロスによるごみを無くしています。

もし斗々屋を訪れる機会があったら、ぜひ店内のショッピングカートも見てみてください。カゴを3つ乗せられるうえ、木製のミニテーブルが付いたショッピングカートは、量り売りでの買い物に特化したユニークなデザインになっています。レストランがオープンしている時間帯は、テーブルとしても使用できます。
ゼロ・ウェイスト
環境問題が深刻となり、リサイクルだけでは対処ができなくなった今、ゼロ・ウェイストの概念は世界に浸透しつつあります。

2022年7月にはインドで使い捨てプラスチック製品の製造と販売、使用が禁止されました。世界中でゼロ・ウェイストへの取り組みは進んでいます。日本も少しずつ新たな取り組みが見られるようになるかもしれません。

今日からすぐにごみを完全に無くすのは非常に困難です。しかし、今できることからトライするだけでゼロ・ウェイストへの第一歩を踏み出せます。

まずは身近な行動から始めてみませんか?
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